知的財産の保護と国際私法等に関する調査研究
平成
27
年
3
月
はじめに
Ⅰ
調査研究目的
企業として、自社が独自に開発した技術を特許化して一般に開示しつつ一定期間国による保護 を求めるのか、それともノウハウや技術情報を社内に留保しつつ活用していくのかは戦略的観点 から重要な問題である。特に、秘密情報として活用することにより、当該情報が陳腐化しない限 り、保護期間の制限なく競争力を維持し続けることは、企業にとって計り知れない価値のある選 択といえる。しかし、特許化等の登録によって権利化されていない知的財産をどのように保護し ていくかは課題であり、とりわけ、近時営業秘密の海外流出が大きな問題となっている。
昨今のグローバル経済の進展に伴った「オープン・クローズ戦略」を実践するためには、国内 において知的財産が保護されるだけでは不十分であり、国際的に適切な保護を受けられることが 期待されるところ、営業秘密等の権利として登録されない知的財産が国外において侵害された場 合に、どの国の保護法令が適用され、どの国の司法当局に救済を求めることができるのかという 点について議論が十分尽くされていないという課題がある1。また、一般に、知的財産の侵害につ いて原告側による証拠収集が難しいという問題は指摘されるところであるが、渉外侵害訴訟にお いてはさらに問題が複雑化する。平成26年2月18日付けで、一般社団法人日本経済団体連合会 が「海外競合企業による技術情報等の不正取得・使用を抑止するための対策強化を求める」との 意見書を公表しているところでもあり、産業界からも抜本的な対策が求められている。
平成14年7月の「知的財産戦略大綱」以降、営業秘密の保護について、内閣に設置されてい る知的財産戦略本部が策定する「知的財産推進計画」等や経済産業省産業構造審議会知的財産政 策部会等により、不正競争防止法改正や営業秘密管理指針の改訂等が行われてきた。そして、近 年、知的財産戦略本部が平成25年6月に決定した「知的財産政策ビジョン」、産業構造審議会知 的財産分科会が平成26 年2月に取りまとめた報告書、同年 4月に知的財産戦略本部の評価・検 証・企画委員会の下に置かれた「営業秘密タスクフォース」が取りまとめた報告書、知的財産戦 略本部が同年7月に決定した「知的財産推進計画2014」等が策定、公表されており、技術情報等 の国外流出の問題点がクローズアップされてきている。例えば、「知的財産政策ビジョン」におい て「取り組むべき施策」として「営業秘密侵害の立証負担軽減(特に国外での使用・開示の証明 など)などのために、営業秘密保護に関する制度について、具体的課題、海外の制度や動向を調 査・研究した上で、必要に応じ、不競法の検討のみならず、民事手続や刑事手続の在り方も含め て幅広い観点から検討し、適切な措置を講ずる」ことが言及されている。「知的財産推進計画2014」 においても、「我が国における流出の実態と課題に照らし、更に実効的な抑止力を持つ刑事規定の 整備、実効的な救済(損害賠償・差止)を実現できる民事規定の整備を実現するため、その内容 と実現スピードの適切なバランスを考えつつ、優先すべき事項から法制度の見直しを進めていく」 とされている。
これらの指摘は、技術情報等の国外流出に関しては、手続法や国際私法の観点も含めて対応し ていかなければ、実体上の保護や救済は画餅となりかねないことを明らかにするものである。こ の点、知的財産における国際裁判管轄に関しては、法制審議会国際裁判管轄法制部会の審議のベ ースとなった報告書(社団法人 商事法務研究会「国際裁判管轄に関する調査・研究報告書」(平 成20年4月)64~71頁「第5の2 知的財産に関する訴え」)もあるが、特許等の登録された知 的財産に係る議論に止まっており、営業秘密等権利として登録されない知的財産は言及されてい ない。
1 不正競争行為(特に営業秘密)と国際管轄権、準拠法に関する文献として、野村秀敏「不正競争行為差止請求訴
訟の土地管轄と国際裁判管轄」判例タイムズNo.1062(2001.8.30)、横溝大「抵触法における不正競争行為の取
扱い-サンゴ砂事件判決を契機として」知的財産法政策学研究 Vol.12(2006)、河野俊行編「知的財産権と渉外民
事訴訟」(弘文堂、平22)、飯塚卓也「営業秘密の国際的侵害行為に関する適用準拠法」高林龍ほか「現代知的財
産法講座Ⅱ 知的財産法の実務的発展」387頁以下(日本評論社、2012)、渡辺惺之「断想 営業秘密技術の国際
営業秘密等権利として登録されない知的財産について、我が国法制度の下で十分な保護を実現 することが究極の目標であるが、まずは、国外で侵害行為が行われた場合に、適用法令(準拠法)、 裁判管轄、証拠収集に関し、諸外国では一体どのように扱われているのかの実態を調査すること により我が国における保護の具体的な問題点を浮き彫りにする必要がある。
本調査研究では、以上の課題について検討するための基礎となる資料を作成することを目的と する。
Ⅱ
調査研究の方法
本調査研究では、アメリカ、EU(イギリス、フランス及びドイツ)、韓国、中国において、我 が国で問題となっているのと同様の事案が発生した場合にどのように扱われているのかを、各調 査対象国の分水嶺が明らかになると思われる仮装事例を設定し、それを前提に、各国の法律専門 家に質問票形式によって問い合わせる方法によって実施した。必要に応じて、現地でさらなる専 門家へのインタビューも実施した。
本調査研究のテーマについては、現時点では各国とも十分な議論が尽くされているとは言い難 いため、先例も文献もないところで、それぞれの国の専門家がその知見に基づき回答をしている 部分も多い。したがって、各国にはこれらの見解とは異なる議論もありうると考えられる。また、 当然ながら、国により法制度が異なるため、質問票の趣旨が正しく理解されない、又は、その国 の法制度においては、質問がまったく的外れとなってしまうといった事態も発生した。限られた 調査研究の時間の中で、追加質問を行うことで可能な限り議論のすり合わせを行ってきたが、最 後まで明らかにできなかった事項もある。
Ⅲ
調査報告書
本調査報告書では、各国からの調査報告をできるだけ忠実に反映することを心がけた。したが って、国により、若干まとめ方が異なる。
また、各国からの回答書の補足事項とともに、その内容から推論するとこうなるであろうとい う事由については、必要に応じて加筆している。加筆事項は、脚注に「作成者注」として記載し た。この加筆事項は、各国の論点に関する考え方を理解する一助となるものと考えているが、あ くまで作成者の私見であることはご了解いただきたい。
本調査報告書の作成は、調査対象国に所在する当事務所の現地事務所が調査を行うとともに、 現地の法律事務所にも協力いただいた。後記各法律事務所の関係者には、この場を借りて篤くお 礼を申し上げたい。
また、委員会委員でもあり、第9章の条約に関する執筆も担当いただいた立教大学法学部国際 ビジネス法学科早川吉尚教授、インタビューを行ったFarrer & Co事務所のJohn Hall弁護士及
び23 Essex Street事務所のクイーンズ・カウンセル(QC)Mark Fenhalls刑事弁護士には、専
門的見地からご助力いただいた。さらに、株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティングには、 国内調査研究に尽力いただいた。ここに感謝の意を表する。
調査事務所及び執筆メンバー
フランス
Atem Lawfirm
Isabelle Camus弁護士
韓国
Lee International IP & Law Group
Nicholas Park(朴昊原)弁護士
Emma Park(朴京珠)弁護士
Robert M. Kim弁護士
Hyunah Kim(金炫雅)弁護士
Sea-Sung Noh(盧桂成)弁護士
中国
P.C. & Associates
董巍弁護士 闫福新弁護士 王唯一弁護士
条約(第9章)
立教大学法学部国際ビジネス法学科 早川吉尚教授
アメリカ
Squire Patton Boggs
Joseph A. Meckes(サンフランシスコオフィス)
Amanpreet Kaur(パロアルトオフィス)
イギリス・
EU
Squire Patton Boggs
Florian Traub(ロンドンオフィス)
南かおり(ロンドンオフィス)
ドイツ
Squire Patton Boggs
Iliana Haleen(フランクフルトオフィス)
Maren Ebner(フランクフルトオフィス)
日本及び本報告書のとりまとめ
Squire Patton Boggs■
目次
第1章 我が国における渉外知財訴訟に係る法的救済の現状と不都合... 1
Ⅰ.権利として登録されない知的財産の侵害(不正競争行為)の概念... 1
1.市場秩序の維持が問題となる類型... 1
2.特定者に対する行為が問題となる類型... 1
3.その他の類型... 1
Ⅱ.営業秘密において想定される渉外侵害事案の類型... 3
Ⅲ.営業秘密の渉外侵害に関する日本における法的救済の現状と不都合... 5
1.営業秘密保護の法的根拠... 5
(1)法的保護の概要... 5
(2)近年の立法・法改正動向... 6
(3)営業秘密侵害における属地主義による限定及び国外犯処罰... 7
2.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 7
(1)基本的な考え方... 7
(2)不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方... 9
(3)損害賠償請求と差止請求の差異... 13
(4)準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 14
(5)重要判例の動向... 14
(6)実務上の運用... 15
(7)結果(損害)発生地の範囲-二次的・派生的な損害発生地について... 15
(8)複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 16
3.営業秘密の渉外侵害事案における証拠収集等制度... 17
(1)民事手続上の証拠収集制度の概要... 17
(2)刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 18
(3)証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 19
(4)外国にある証拠の収集制度... 19
(5)営業秘密保護措置... 21
(6)原告の立証負担軽減制度... 22
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 23
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 23
(1)国際裁判管轄及び準拠法... 23
(2)証拠収集等制度... 24
2.特許権・著作権... 25
(1)属地主義との関係... 25
(2)国際裁判管轄及び準拠法... 26
(3)証拠収集等制度及び原告の立証負担軽減制度... 27
第2章 アメリカ... 29
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 29
1.法的根拠の概要... 29
(1)民事上の保護について... 29
(2)刑事上の保護について... 29
2.近年の立法・法改正... 30
(1)経済スパイ法について... 30
(2)コンピュータ詐欺濫用に関する法について... 31
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 31
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 32
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 32
(1)国際裁判管轄... 32
2.不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方... 34
(1)国際裁判管轄... 34
(2)準拠法... 34
3.損害賠償請求と差止請求の差異... 34
4.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 34
5.重要判例の動向や政策動向... 34
6.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 35
7.結果(損害)発生地の範囲... 35
8.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 36
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 37
1.民事手続上の証拠収集制度の概要(調査及び査察命令を伴う証拠収集手続)... 37
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 39
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 39
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 39
5.外国にある証拠の収集制度... 39
6.営業秘密保護措置... 39
7.原告の立証負担軽減制度... 40
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 41
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 41
(1)不正競争行為... 41
(2)属地主義との関係... 44
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 45
(4)証拠収集等制度... 45
2.特許権・著作権... 45
(1)国際裁判管轄及び準拠法... 45
(2)証拠収集等制度... 45
第3章 EU... 46
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 46
1.法的根拠の概要... 46
2.近年の立法・法改正... 46
(1)EU 営業秘密保護に関する指令 概要... 46
(2)新EU 営業秘密保護に関する指令草案... 47
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 49
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 50
1.EUにおける営業秘密侵害と国際裁判管轄及び準拠法について... 50
2.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 50
(1)国際裁判管轄... 50
(2)準拠法... 56
3.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 60
(1)国際裁判管轄... 60
(2)準拠法... 60
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 62
1.民事手続上の証拠収集制度の概要... 62
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 62
(1)刑事手続... 62
(2)行政手続... 62
3.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 62
4.外国にある証拠の収集制度... 63
(1)民事又は商事事件に関する証拠収集に関する加盟国間の協力にかかるEU規則... 63
(2)ハーグ証拠収集条約... 63
6.原告の立証負担軽減制度... 63
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 64
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 64
(1)不正競争行為... 64
(2)属地主義との関係... 67
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 68
(4)証拠収集等制度... 68
2.特許権・著作権... 68
(1)属地主義との関係... 68
(2)国際裁判管轄及び準拠法... 69
(3)証拠収集等制度... 69
第4章 イギリス... 73
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 73
1.法的根拠の概要... 73
(1)民事上の保護... 73
(2)刑事上の保護... 80
(3) 刑事手続と民事手続の比較... 81
2.近年の立法・法改正... 82
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 82
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 83
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 83
(1)国際裁判管轄... 83
(2)準拠法... 86
2.損害賠償請求と差止請求の差異... 87
3.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 87
4.重要判例の動向や政策動向... 88
5.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 90
(1)国際裁判管轄... 90
(2)準拠法... 90
6.結果(損害)発生地の範囲... 90
7.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 90
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 91
1.民事手続上の証拠収集制度の概要... 91
(1)情報提供請求(Request for further information)... 91
(2)証拠開示(Disclosure)... 91
(3)Norwich Pharmacal Order ... 92
(4)捜索・差押命令(Search and Seizure orders)... 93
(5)財産凍結命令(Freezing Injunction)... 95
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 96
(1)刑事手続... 96
(2)行政手続... 96
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 96
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 96
5.外国にある証拠の収集制度... 96
6.営業秘密保護措置... 96
7.原告の立証負担軽減制度... 96
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 97
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 97
(1)不正競争行為... 97
(2)属地主義との関係... 105
(4)証拠収集等制度... 106
2.特許権・著作権... 106
(1)属地主義との関係... 106
(2)国際裁判管轄及び準拠法... 107
(3)証拠収集等制度... 108
第5章 フランス...110
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠...110
1.法的根拠の概要...110
2.近年の立法・法改正...110
3.営業秘密侵害における属地主義による限定...111
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法...112
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方...112
(1)国際裁判管轄...112
(2)準拠法...113
2.不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方...114
(1)国際裁判管轄...114
(2)準拠法...115
3.損害賠償請求と差止請求の差異...117
4.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性...117
5.重要判例の動向や政策動向...117
6.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)...118
(1)国際裁判管轄...118
(2)準拠法...118
7.結果(損害)発生地の範囲...119
8.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合...119
(1)国際裁判管轄...119
(2)準拠法...119
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 121
1.民事手続上の証拠収集制度の概要... 121
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 122
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 122
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 123
5.外国にある証拠の収集制度... 123
6.営業秘密保護措置... 124
7.原告の立証負担軽減制度... 124
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 125
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 125
(1)不正競争行為... 125
(2)属地主義との関係... 130
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 130
(4)証拠収集等制度... 130
2.特許権・著作権... 130
(1)属地主義との関係... 130
(2)国際裁判管轄及び準拠法... 131
(3)証拠収集等制度... 131
第6章 ドイツ... 132
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 132
1.法的根拠の概要... 132
2.近年の立法・法改正... 134
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 134
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 135
(1)国際裁判管轄... 135
(2)準拠法... 135
2.不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方... 136
(1)国際裁判管轄... 136
(2)準拠法... 137
3.損害賠償請求と差止請求の差異... 138
4.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 138
5.重要判例の動向や政策動向... 138
6.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 139
7.結果(損害)発生地の範囲... 139
8.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 140
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 141
1.民事手続上の証拠収集制度の概要(調査及び査察命令を伴う証拠収集手続)... 141
(1)調査及び査察命令を伴う証拠収集手続... 141
(2)前記(1)の手続における対象者の敷地への立入り... 144
(3)前記(1)の手続の利用実態... 144
(4)前記(1)の手続における営業秘密侵害特有の制度... 144
(5)前記(1)の手続に関する命令や証拠価値が問題となった事案... 145
(6)前記(1)における調査や命令の濫用防止制度... 145
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 145
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 146
(1)両手続の比較... 146
(2)他の手続で収集された証拠の別の手続における流用... 148
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 149
5.外国にある証拠の収集制度... 150
6.営業秘密保護措置... 151
7.原告の立証負担軽減制度... 152
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 153
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 153
(1)不正競争行為... 153
(2)属地主義との関係... 164
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 165
(4)証拠収集等制度... 165
2.特許権・著作権... 165
(1)国際裁判管轄及び準拠法... 166
(2)証拠収集等制度... 166
第7章 韓国... 167
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 167
1.法的根拠の概要... 167
(1)不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律... 167
(2)刑事上の営業秘密保護及び関連法... 167
2.近年の立法・法改正... 168
(1)刑法... 168
(2)不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律... 168
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 169
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 170
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 170
(1)国際裁判管轄... 170
(2)準拠法... 171
(1)国際裁判管轄... 171
(2)準拠法... 172
3.損害賠償請求と差止請求の差異... 172
(1)国際裁判管轄... 172
(2)準拠法... 173
4.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 173
5.重要判例の動向や政策動向... 173
6.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 173
(1)国際裁判管轄... 173
(2)準拠法... 174
7.結果(損害)発生地の範囲... 174
8.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 174
(1)国際裁判管轄... 174
(2)準拠法... 175
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 176
1.民事手続上の証拠収集制度の概要(調査及び査察命令を伴う証拠収集手続)... 176
(1)証拠収集方法... 176
(2)証拠保全... 176
(3)調査等に伴う証拠収集手続... 176
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 179
(1)刑事訴訟における証拠収集方法... 179
(2)行政手続上の証拠収集方法... 180
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 180
(1)証拠収集方法に関して有利とされる訴訟形態の選択... 180
(2)証拠収集手続に従わない当事者に対して科せられる制裁... 180
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 180
5.外国にある証拠の収集制度... 181
6.営業秘密保護措置... 181
7.原告の立証負担軽減制度... 182
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 183
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 183
(1)不正競争行為... 183
(2)属地主義との関係... 193
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 194
(4)証拠収集等制度... 194
2.特許権・著作権... 194
(1)国際裁判管轄及び準拠法... 194
(2)証拠収集等制度... 195
第8章 中国... 196
Ⅰ.営業秘密保護の法的根拠... 196
1.法的根拠の概要... 196
2.近年の立法・法改正... 196
3.営業秘密侵害における属地主義による限定... 196
Ⅱ.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法... 198
1.国際裁判管轄及び準拠法についての基本的な考え方... 198
(1)国際裁判管轄... 198
(2)準拠法... 199
2.不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方... 200
(1)国際裁判管轄... 200
(2)準拠法... 201
4.準拠法ルールと国際裁判管轄との整合性... 202
5.重要判例の動向や政策動向... 202
6.実務上の運用(契約書作成上の留意点等)... 202
7.結果(損害)発生地の範囲... 202
8.複数国において侵害行為が行われた場合や侵害行為の結果が発生した場合... 203
(1)国際裁判管轄... 203
(2)準拠法... 203
(3)密接関連地の基準... 203
Ⅲ.営業秘密侵害事案における証拠収集等制度... 204
1.民事手続上の証拠収集制度の概要(調査及び査察命令を伴う証拠収集手続)... 204
2.刑事手続及び行政手続上の証拠収集制度の概要... 206
3.証拠収集における民事手続と刑事手続の関係... 208
4.営業秘密侵害事案におけるその他の証拠収集手続... 209
5.外国にある証拠の収集制度... 209
6.営業秘密保護措置... 210
7.原告の立証負担軽減制度...211
Ⅳ.営業秘密侵害以外の不正競争行為や特許権・著作権... 213
1.営業秘密侵害以外の不正競争行為... 213
(1)不正競争行為... 213
(2)属地主義との関係... 218
(3)国際裁判管轄及び準拠法... 218
(4)証拠収集等制度... 219
2.特許権・著作権... 219
(1)国際裁判管轄及び準拠法... 219
(2)証拠収集等制度... 220
第9章 国際的な法規範における営業秘密侵害に関する国際裁判管轄・準拠法について... 221
第10章 委員会での検討事項... 226
Ⅰ.調査研究委員会委員... 226
Ⅱ.調査研究委員会の開催概要及び委員からの意見... 227
1.調査研究委員会の開催概要... 227
2.委員からの意見... 227
(1)国際裁判管轄... 227
(2)準拠法... 228
(3)証拠収集方法等... 228
参考条文集... 229
Ⅰ.国際条約... 229
Ⅱ.アメリカ... 231
Ⅲ.EU ... 252
Ⅳ.イギリス... 267
Ⅴ.フランス... 282
Ⅵ.ドイツ... 286
Ⅶ.韓国... 336
第1章
我が国における渉外知財訴訟に係る法的救済の現状と不都合
Ⅰ.権利として登録されない知的財産の侵害(不正競争行為)の概念
権利として登録されない知的財産は、我が国においては、不正競争行為を定めることにより保 護されている。その類型は、市場秩序の維持が問題となる類型、特定者に対する行為が問題とな る類型とそれ以外に分けられる。1.市場秩序の維持が問題となる類型
不正競争防止法は、市場秩序の維持が問題となる不正競争行為類型として、周知表示混同惹起 行為(第2条第1項第1号)、著名表示冒用行為(第2条第1項第2号)、商品形態模倣行為(第 2条第1項第3号)等を不正競争行為として定めている。
これら3つの不正競争行為類型については、いずれも民事上の措置として、差止請求権(第3 条)や損害賠償請求権(第4条)のほか、損害額の推定(第5条)、具体的態様の明示義務(第6 条)、書類の提出命令(第 7条)、損害計算のための鑑定(第8 条)、相当な損害額の認定(第9 条)、秘密保持命令(第10条及び第11条)、訴訟記録の閲覧等請求の通知等(第12条)、当事者 尋問等の公開停止(第13条)、信用回復措置(第14条)といった措置が講じられている。
また、不正競争防止法は、不正の目的をもって行う周知表示混同惹起行為、他人の著名な商品 等表示に係る信用若しくは名声を利用して不正の利益を得る目的、又は当該信用若しくは名声を 害する目的をもって行う著名表示冒用行為、不正の利益を得る目的をもって行う商品形態模倣行 為を刑事罰の対象としている(第 21 条)。そして、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、 使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、上記不正競争行為を行った場合には、 行為者のほかその法人又は個人も処罰される(第22条1項)。
さらに、関税法に基づき、これら3つの不正競争行為を組成する物品の税関での水際差止制度 がある。
2.特定者に対する行為が問題となる類型
不正競争防止法において特定者に対する行為が問題となる類型の典型は営業秘密侵害である。 保護の概要については、本章Ⅲ.1.(1)(5頁)で後述する。
3.その他の類型
不正競争防止法において、その他の不正競争行為として、技術的制限手段に対する不正行為(第 2条第1項第10号及び第11号)、ドメイン名に関する不正行為(第2条第1項第12号)、原産 地・品質等誤認惹起行為(第2条第1項第13号)、信用毀損行為(第2条第1項第14号)、代理 人等の商標冒用行為(第2条第1項第15号)が定められている。
これらの不正競争行為類型についても、不正競争防止法上、上記1.で前述した民事上の措置 が講じられている。
う原産地・品質等誤認惹起行為を除く)を刑事罰の対象としている(第21条)。また、法人の代 表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、上 記不正競争行為を行った場合には、行為者のほかその法人又は個人も処罰される(第 22 条第 1 項)。なお、ドメイン名に関する不正行為、信用毀損行為、代理人等の商標冒用行為については、 不正競争防止法上、刑事罰の対象としていない。
Ⅱ.営業秘密において想定される渉外侵害事案の類型
日本及び調査対象国の判例、裁判例、報道された主な事件をもとに類型化すると以下のようにな る。
なお、営業秘密において想定される渉外侵害事案における各用語は以下のとおりとする。 企業X:本件営業秘密の保有者
本件営業秘密:企業Xが保有する営業秘密
A国:企業Xの所在地
従業員XE:企業Xの従業員
企業Y:本件営業秘密を取得し使用した者 企業Z:企業Xと契約関係のある取引先 従業員ZE:企業Zの従業員
想定される類型(1):
① 従業員XEは、A国において、職務上本件営業秘密を取得した。
そして、従業員XEは、A国において、企業Yに対して不正に本件営業秘密を開示した。企業 Yは、A国以外の国で、本件営業秘密を用いた製品を製造しその製品を販売した(又は、企業Y は本件営業秘密を用いた営業を行った。)。
従業員XEの企業Yに対する本件営業秘密の開示が、従業員XEの企業X在職中である場合と、 退職後(企業Yへの転職も含む。)である場合とが考えられる。
② 上記①の事案で、従業員XEが企業Yに対して本件営業秘密を開示したのが、A国以外の国 である場合2。
③ 上記①の事案で、企業YがA国においても、本件営業秘密を用いた製品を製造しその製品を 販売した(又は、企業Yは本件営業秘密を用いた営業を行った)場合3。
<類型(1)の例>
グルード事件(東京地判平成元年5月30日判タ703号240頁(中間判決)、東京地判平成3 年9月24日判タ769号280頁)(従業員XEは企業Xを退職後、別企業を設立し、当該企 業から企業Yに不正に本件営業秘密が開示された例)
新日鐵住金・ポスコ事件(当該営業秘密はポスコからさらに宝山鋼鉄に漏洩)(報道による)
想定される類型(2):
企業Zは、A国において、企業Xから契約上適法に本件営業秘密を取得し、従業員ZEは職務 上本件営業秘密を取得した。
そして、従業員ZEは企業Yに対して不正に本件営業秘密を開示した。企業Yは本件営業秘密 を用いた製品を製造しその製品を販売した(又は、企業Yは本件営業秘密を用いた営業を行って いる)。当該開示、製造及び販売(又は営業)はA国以外で行われている。
なお、この類型においても、類型(1)と同様、従業員ZEの企業Yへの開示が企業Z在職中 か退職後か、企業Yの本件営業秘密の取得地はA国なのか、別の国なのかといったバリエーショ ンがあり、さらには、製品の販売又は営業地がA国も含む場合という類型もありうる。
2 この類型では、企業YはA国において本件営業秘密に係る何らの行為も行っていないことになる。
3
<類型(2)の例>
眉トリートメント事件(最判平成26年4月24日民集68巻4号278頁) 東芝・SKハイニックス事件(報道による)
想定される類型(3):
第三者が、企業Xのコンピュータ・システムへ不正侵入し、本件営業秘密を取得した。そして、 第三者により、本件営業秘密がインターネット上に開示された。
<例>
Ⅲ.営業秘密の渉外侵害に関する日本における法的救済の現状と不都合
1.営業秘密保護の法的根拠
(1)法的保護の概要日本における営業秘密の法的保護は不正競争防止法に基づく。不正競争防止法自体は、1934 年に、「工業所有権の保護に関するパリ条約ヘーグ改正条約」の批准に際して、条約上の義務を 履行する観点から制定され、営業秘密の保護に係る規定が盛り込まれたのは1990年改正による。 不正競争防止法は、営業秘密侵害に関し、下記の行為を不正競争行為として規定している(第 2条第1項第4号ないし第9号)。
(定義) 二条
1 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」
という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を
保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知ら
ないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
六 その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過
失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合にお
いて、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、
又は開示する行為
八 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその
営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為を
いう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知
って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使
用し、若しくは開示する行為
九 その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密につ
いて不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業
秘密を使用し、又は開示する行為
営業秘密侵害については、前述した不正競争防止法上の民事上の措置4に加え、営業秘密の継続 的な不正使用行為に対する侵害の停止又は予防請求権に関し、その行為により営業上の利益が侵 害され又は侵害されるおそれがある保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から3年 間の消滅時効、その行為の開始の時から 10 年の除斥期間が定められている(不正競争防止法第 15条)。
また、不正競争防止法は、営業秘密侵害罪を以下のように規定している(第21条第1項)。そ して、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の 業務に関し、第21条第1項第1号、第2号及び第7号の行為を行った場合には、行為者のほか その法人(3億円以下の罰金刑)又は個人も処罰される(第22条第1項)。
(罰則) 二十一条
1 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万以下の罰金に処し、又は これを併科する。
4
一 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、 人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)又は管理侵害 行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する 法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項 に規定する不正アクセス行為をいう。) その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)により、営業秘密 を取得した者
二 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又は その保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者
三 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に 損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法で その営業秘密を領得した者
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体を いう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。 ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件につ
いて、その複製を作成すること。
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該 記載又は記録を消去したように仮装すること。
四 営業秘密を保有者から示された者であって、その営業秘密の管理に係る任務に背いて前号 イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその 保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用し、又は開示し た者
五 営業秘密を保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、 監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であっ て、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理 に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。) 六 営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、不正の利益を得
る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係 る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示に ついて請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号 に掲げる者を除く。)
七 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、第二号又は前三号の罪 に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者 それから、主として営業秘密が刑事手続において公となることの弊害を防止する観点から、不 正競争防止法上、刑事訴訟手続の特例として、営業秘密の秘匿決定(第23条)、起訴状の朗読方 法の特例(第24条)、尋問等の制限(第25条)、公判期日外の証人尋問等(第26条)、尋問等に 係る事項の要領を記載した書面の提示命令(第27条)、証拠書類の朗読方法の特例(第28条)、 公判前整理手続等における決定(第29条)、証拠開示の際の営業秘密の秘匿要請(第30条)と いった規定が設けられている。
なお、関税法上、営業秘密侵害物品は、差止が可能な不正競争防止法侵害物品に含められてい ない。
(2)近年の立法・法改正動向
「日本再興戦略 改訂2014」(2014年6月閣議決定)及び「知的財産推進計画2014」(2014 年7月知的財産戦略本部決定)において、営業秘密の保護の強化に向けた制度整備等が求められ たことにより、産業構造審議会知的財産分科会のもとに、学識経験者、産業界、法曹界、裁判所 等の代表者によって構成される「営業秘密の保護・活用に関する小委員会(以下、小委員会)」 が立ち上げられ、2014年9月より4回の審議が行われた。小委員会では、法改正に関連する論 点として、刑事規定については、国外における故意での営業秘密の不正取得・領得の処罰対象化、 故意での営業秘密の取得、使用、開示行為の未遂行為の処罰化、転得者(三次以降の取得者)の 処罰化、営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等の処罰化、法定刑のあり方、非親告罪化、図利加害目 的の法解釈明確化、民事規定については、被害企業の立証負担の軽減、除斥期間の延長、営業秘 密侵害品の譲渡・輸出入等の禁止・水際措置が議論・検討された5。
(3)営業秘密侵害における属地主義6による限定及び国外犯処罰
不正競争防止法によって保護される営業秘密は、権利の属地的性格は有していないといわれて いる7。特許権のように権利を付与する知的財産権とは異なり、不正競争防止法は権利を付与する ものではなく一定の行為を禁止する構成を採る8。そこで、営業秘密については、知的財産権の属 地主義の原則は働かず、外国において国内の営業秘密が侵害され、国内法が準拠法となった場合 には、同一内容の営業秘密が当該外国において存在しているか等の当該外国での権利状況につい て考慮されることなく、国内法が適用されることになる9。また、外国の営業秘密の侵害行為につ いて日本の裁判所に国際裁判管轄が認められないわけではない10。
また、不正競争防止法は営業秘密侵害罪の一部(第21条第1項第2号、第4号ないし第7号) について、国外犯処罰の特別規定を設けている(第21条第4項)。
(罰則) 二十一条
4 第一項第二号又は第四号から第七号までの罪は、詐欺等行為若しくは管理侵害行為があった 時又は保有者から示された時に日本国内において管理されていた営業秘密について、日本国外に おいてこれらの罪を犯した者にも適用する。
2.営業秘密の渉外侵害事案における国際裁判管轄及び準拠法
(1)基本的な考え方①国際裁判管轄
2011年改正前の民事訴訟法には国際裁判管轄に関する明文規定は存在しておらず、マレーシア 航空事件判決11やファミリー事件判決12等の判例の準則によって実務は運用されてきたが、2011
5 産業構造審議会 知的財産分科会 営業秘密の保護・活用に関する小委員会「中間とりまとめ」(平成27年2月)
6
属地主義の原則とは、通常、「一国で認めた知的財産権の効力はその国の統治権の及ぶ領域内に限られ、その成
立、移転、効力などは総てその権利を認める国の法律によるものとする。」と定義されている(金彦叔『国際知的
財産権保護と法の抵触』107頁《信山社、2011年》)。
7 国友明彦『ノウハウ侵害による不法行為及び不当利得の準拠法』平成3年度重要判例解説261頁(有斐閣、1992
年)、金彦叔『国際知的財産権保護と法の抵触』218頁(信山社、2011年)。
8 金彦叔『国際知的財産権保護と法の抵触』16頁注22)(信山社、2011年)、国友明彦「複数国にわたる不正競
争行為の準拠法」平成17年度重要判例解説308頁(有斐閣、2006年)。
9 金彦叔『国際知的財産権保護と法の抵触』218頁(信山社、2011年)。
10
属地主義の原則の下でも外国の知的財産権に基づく日本の裁判所における請求が妨げられないことについて 、
中西康他『国際私法』279頁(有斐閣、2014年)。
11
年の民事訴訟法改正において国際裁判管轄に係る規定が新設された。営業秘密の渉外侵害事案に おける差止請求及び損害賠償請求について日本の国際裁判管轄が認められる場合としては、民事 訴訟法上、以下のものが考えられる13。但し、民事訴訟法第3条の9に定める事情(特別の事情 による訴えの却下)がある場合には修正される。
なお、民事訴訟法上、営業秘密侵害行為を含む知的財産権の侵害に関する訴えの国際裁判管轄 について特段の規定は設けられていない14。
(1) 被告の普通裁判籍が日本にある場合(第3条の2)
(2) 被告に契約違反があるときの契約履行地が日本である場合(第3条の3第1号)
(3) 請求の目的が日本国内にある場合、又は、損害賠償請求において差し押えることができる被告
の財産の所在地が日本である場合(第3条の3第3号)15
(4) 被告が事務所又は営業所を日本に有するときで、その事務所又は営業所における業務に関する
場合16(第3条の3第4号)
(5) 被告が日本において事業を行う者で、日本における業務に関する場合(第3条の3第5号)
(6) 不法行為に関する訴えにつき「不法行為があった地」が日本である場合(第3条の3第8号)
(7) 併合請求の場合(第3条の6)
(8) 合意管轄が認められる場合(第3条の7)
(9) 応訴管轄が認められる場合(第3条の8)
②準拠法
営業秘密の渉外侵害事案における差止請求及び損害賠償請求について適用すべき準拠法の選 択ルールについて、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)上、以下のものが考え られる17。なお、通則法上、営業秘密侵害行為を含む不正競争に基づく不法行為について特則規 定は設けられていない18。
(1) 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力として、加害行為の結果が発生した地の法(結
果発生地法)(第17条本文)
(2) 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力として、その地における結果の発生が通常予見
することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法(加害行為地法)(第
17条但書)
(3) 不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の
契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、第17条によ
12 最三判平成9年11月11日民集51巻10号4055頁。
13
渡辺惺之「断想 営業秘密技術の国際的侵害と裁判管轄」日本知財学会誌 第9巻第1号、49頁(2012年)、
實川和子「国際訴訟競合と民事訴訟法3条の9」日本国際経済法学会年報 第23号126頁(2014年)。知的財産
訴訟につき知的財産裁判実務研究会編『改訂版 知的財産訴訟の実務』17頁(法曹会、2014年)〔高松宏之〕。特
許権に関し、高部眞規子『実務詳説 特許関係訴訟【第2版】」269頁(金融財政事情研究会、2012年)、「渉外
事件のあるべき解決方法」パテント 65巻3号96頁〔高部発言〕。
14 特段の規定が設けられなかった経緯につき、佐藤達文・小林康彦『一問一答 平成23年民事訴訟法等改正―
国際裁判管轄法制の整備』113頁(商事法務、2012年)
15 被告が日本において著作権を有しないことの確認請求において、請求の目的たる財産(著作権)が日本に存在
することを理由に財産所在地の裁判籍が認められ国際裁判管轄が認められている(最二小判平成13年6月8日
民集55巻4号727頁)。 16
佐藤達文・小林康彦『一問一答 平成23年民事訴訟法等改正―国際裁判管轄法制の整備』52頁(商事法務 、
2012年)は、「事務所又は営業所における業務」は、当該事務所又は営業所が実際に関与したことを要するとさ
れており、当該事務所又は営業所が日本国内のみならず外国における業務をも担当しているのであれば、当該事
務所又は営業所が関与する業務である限り、その業務が外国で行われたとしても、本号の対象となるとする。 17
飯塚卓也「営業秘密の国際的侵害行為に関する適用準拠法」高林龍ほか編『現代知的財産法講座Ⅱ知的財産法
の実務的発展』402-409頁(日本評論社、2012年)。
18
特則規定が設けられなかった経緯につき、小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法 法の適用に関する通則
法の解説』115頁(商事法務、2006年)、小出邦夫編著『逐条解説 法の適用に関する通則法〔増補版〕』228頁
って適用すべき法の属する地よりも明らかに密接な関係がある地の法(第20条)
(4) 不法行為後における当事者による準拠法の変更(第21条)
(5) 不法行為についての公序による制限(第22条)
契約上又は信義則上の秘密保持義務に違反して営業秘密の不正使用行為や不正開示行為が行 なわれた場合、これを理由とする差止請求や損害賠償請求については、通則法第20条により、 当該契約上の義務の準拠法が選択される場合が多いと考えられる19。また、通則法第20条により、 当事者である法人の主たる事業所の所在地が共通する事情や当該営業秘密に関連する事業所の 所在地が共通する事情も考慮され、さらには、営業秘密の侵害行為のほとんどが行われている地 や結果発生の中心となる地が最密接関連地と解されるとの指摘がある20。
(2)不法行為に関する国際裁判管轄及び準拠法の考え方
①国際裁判管轄 民事訴訟法第3条の3
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することが できる。
八 不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行 為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見する ことのできないものであったときを除く。)。
営業秘密侵害を理由とする損害賠償請求に関する訴えの場合、「不法行為に関する訴え」(民事 訴訟法第3条の3第8号)に含まれるとして、不法行為地による国際裁判管轄に服するとするの が一般的であるが21、差止請求に関する訴えについては争いがある。
この点について、判例(最一小判平成26年4月24日民集68巻4号329頁)は、営業秘密侵 害を理由とする差止請求に関する訴えも「不法行為に関する訴え」に含まれるとの立場を採用し ている。肯定する立場22からは、次のような考え方が理由として示されている。
(a) 国内の裁判管轄においても、不正競争行為を理由とする差止請求につき、不法行為地によ る裁判管轄の規定(民事訴訟法法5条9号)を適用するというのが実務(最決平成16年4 月8日民集58巻4号825頁)であり、これと整合性をとるべきであるといった考え方23。 (b) 民事訴訟法第3条の3第8号が不法行為地管轄として「不法行為があった地」を基準とす
19 飯塚卓也「営業秘密の国際的侵害行為に関する適用準拠法」高林龍ほか編『現代知的財産法講座Ⅱ知的財産法
の実務的発展』407頁(日本評論社、2012年)。小出邦夫編著『逐条解説 法の適用に関する通則法〔増補版 〕』
235頁(商事法務、2014年)、櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法第1巻』507頁〔西谷祐子〕(有斐閣、2011
年)参照。
20 飯塚卓也「営業秘密の国際的侵害行為に関する適用準拠法」高林龍ほか編『現代知的財産法講座Ⅱ知的財産法
の実務的発展』406頁、407頁(日本評論社、2012年)。櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法第1巻』506
頁〔西谷祐子〕(有斐閣、2011年)参照。なお、不正競争防止法2条1項14号の信用毀損行為に関する事案にお
ける通則法20条の適用につき知財高決平成21年12月15日。
21 最一小判平成26年4月24日民集68巻4号329頁。知的財産権(営業秘密を含む)の侵害等を理由とする損
害賠償請求に関する訴えにつき、2011年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を
解釈したものにつき肯定説をとるものとして、最二小判平成13年6月8日民集55巻4号727頁、佐野寛「不法
行為地の管轄権」高桑昭、道垣内正人編『新・裁判実務大系3 国際民事訴訟法〔財産法関係〕』93頁(青林書
院、2002年)、申美穂「知的財産権侵害に関する国際裁判管轄について(一)」法学論叢155巻2号40頁(2004
年)等。
22 實川和子「国際訴訟競合と民事訴訟法3条の9」日本国際経済法学会年報第23号127頁(2014年)等。知的
財産権の侵害に基づく差止請求及び損害賠償請求について不法行為に関する訴えに含まれると解することにつき、
佐藤達文・小林康彦『一問一答 平成23年民事訴訟法等改正―国際裁判管轄法制の整備』69頁(商事法務、2012
年)、知的財産裁判実務研究会編『改訂版 知的財産訴訟の実務』17頁(法曹会、2014年)〔高松宏之〕等。
23「国際裁判管轄に関する調査・研究報告書」66頁(社団法人商事法務研究会、2008年4月)、實川和子「国際
る趣旨は、不法行為があった地には訴訟資料、証拠方法等が所在していることが多く、また、 不法行為があった地での提訴を認めることが被害者にとっても便宜であるとされていると ころ、このことは知的財産権の侵害等を理由とする請求のうち損害賠償請求と差止請求とで 大きく異なるところではないといった考え方24。
(c) 我が国の不正競争防止法は不法行為に関する特別法として出発し、「不正競争によって営 業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者」のみ差止請求が認められている(不 正競争防止法第3条1項)のであって、諸外国の立法に比してなお私法的色彩を色濃く残し ているといった考え方25。
なお、最一小判平成14年9月26日民集56巻7号1551頁は、特許権侵害を理由とする差止 請求の準拠法は、損害賠償請求の場合とは異なり、「不法行為」(法例第 11条1項)ではなく特 許権の効力と性質決定され、条理に基づいて当該特許権と最も密接な関係がある国つまり当該特 許権が登録された国の法律であるとする。国際裁判管轄を判断するために考慮される要素は、準 拠法を選択するために考慮される要素とは異なるため、国際裁判管轄に関する判例(最一小判平 成26年4月24日民集68巻4号329頁、最決平成16年4月8日民集58巻4号825頁)と準 拠法に関する判例(最一小判平成14年9月26日民集56巻7号1551頁)は矛盾しないと指摘 する見解もある26。
そして、「不法行為があった地」(民事訴訟法第3条の3第8号)には、加害行為地と結果(損 害)発生地の両者が含まれるとされている27。
したがって、前述した判例の立場を前提とすると、営業秘密侵害における加害行為地又は結果 (損害)発生地が日本国内にある場合には(但し、加害行為地が外国にあり、結果(損害)発生 地が日本国内にある場合において、日本国内におけるその結果(損害)の発生が通常予見するこ とのできないものであった場合は除く《民事訴訟法第3条の3第8号括弧書》。)、日本に国際裁 判管轄が認められることになる。
営業秘密侵害における「不法行為があった地」(民事訴訟法第3条の3第8号)すなわち加害 行為地及び結果(損害)発生地の判断要素について、日本においては、裁判所の判断も確立して おらず、学説上も定説がない。
まず、営業秘密侵害における加害行為地の判断要素については、a)不正取得行為地、b)不正開 示行為地、c)不正使用行為地が考えられる28。
a)不正取得行為地に関して、2011年の民事訴訟法改正前の国内土地管轄の規定である民事訴訟 法第5条第9号の適用による国際裁判管轄が争われた事案において、営業秘密の管理は外国にお いてなされているにもかかわらず、「本件不法行為の加害行為とされているもののうち専有ファ
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年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を解釈したものとして、申美穂
「知的財産権侵害に関する国際裁判管轄について(一)」法学論叢155巻2号41頁(2004年)等。
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年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を解釈したものとして、野村秀
敏「不正競争行為差止請求訴訟の土地管轄と国際裁判管轄」判タ1062号112頁、114頁。特に、営業秘密につ
き言及するものとして、渡辺惺之「断想 営業秘密技術の国際的侵害と裁判管轄」日本知財学会誌第9巻第1号
51頁(2012年)。 26
井上泰人「国際裁判管轄」牧野利秋他『知的財産訴訟実務体系Ⅲ』433頁注)29(青林書院、2014年)。
27 東京地判平成25年10月21日、佐藤達文・小林康彦『一問一答 平成23年民事訴訟法等改正―国際裁判管轄
法制の整備』69頁(商事法務、2012年)、「裁判所と日弁連知的財産センターとの意見交換会」判タ1390号32
頁〔齋藤巌発言〕等。2011年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を解釈したも
のとして、東京地判昭和40年5月27日下民集16巻5号923頁、知財高判平成22年9月15日判タ1340号265
頁等 28
日本の裁判例では、営業秘密の侵害による損害賠償請求の国際裁判管轄は、営業秘密が秘密として護られてい
た地ではなく、不正取得、開示、使用が事実として行われた地に認められる傾向が非常に強いとの分析につき、
渡辺惺之「断想 営業秘密技術の国際的侵害と裁判管轄」日本知財学会誌第9巻第1号51頁(2012年)。また、
渡辺教授は、特許権とは異なり、営業秘密の情報自体は権利化されず、情報保持者による秘密管理を破り不正に
取得、開示、使用する侵害者側の行為を不法行為として規制し、保護する形になっていることから、不法行為と
しての場所的な関係は、属地性という権利の所在地の重心が弱まり、むしろ権利者側の行為の場所に重心がある
イル情報の入手という重要な行為が日本の東京で行われたことになる。」として日本に不法行為 地の管轄を認めた裁判例29がある。
また、b)不正開示行為地及びc)不正使用行為地に関しても、日本が営業秘密の不正開示行為地 及び不正使用行為地であることを前提として日本に不法行為地管轄を認めた裁判例がある30。
次に、営業秘密侵害における結果(損害)発生地の判断要素については、d)営業秘密の秘密管 理地、e)市場地、f)被害企業の所在地(主たる営業所の所在地)31が考えられる。
d)秘密管理地に関して、情報の保持者が物理的に秘密管理をし、法的にも契約や誓約書により 秘密管理を行っていることが、それを破り不正に情報を取得・開示・使用することの違法性の根 源であると考え、原則として営業秘密の秘密管理地により不法行為地管轄を認めるべきとする見 解がある32。
e)市場地に関して、少なくとも不正競争行為に基づく差止請求の訴えに関する国際裁判管轄と の関連では、現実的な売上げの減少等の生じた地が重要である(そこに証拠が集中している可能 性が高く、認容判決を執行する必要があるのもその地であることが多いだろう。)として、市場 地を結果(損害)発生地と捉えるべきとする見解がある33。しかし、当該市場での販売行為は本 社の指示に基づいて行われるから、その市場で幾らのものを幾らで売ったかということは本社に 聞いてみなければ分からず、市場地は重要ではないとする指摘もある34。
②準拠法 通則法 (不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法に よる。但し、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加 害行為が行われた地の法による。
営業秘密侵害行為に関する準拠法に関して、通則法第17条(法例第11条1項)の不法行為の 問題として性質決定するのが大多数の見解であり35、これを採用する裁判例36もある。
しかし、不正競争の準拠法については通則法(法例)その他に規定がないものとして、条理に より市場地法によるべきであるとする見解37のほか、営業秘密侵害行為を含めた不正競争行為を
29 東京地裁平成元年5月30日中間判決判タ703号240頁。
30
最一小判平成26年4月24日民集68巻4号329頁の原審である東京高判平成23年5月11日。
31 名誉又は信用の毀損に係る不法行為の準拠法を定める通則法19条の類推適用により、営業秘密が侵害された
地を被害企業の本店所在地とする主張につき、最一小判平成26年4月24日民集68巻4号329頁の原審である
東京高判平成23年5月11日は採用できないとした。
32
渡辺惺之「断想 営業秘密技術の国際的侵害と裁判管轄」日本知財学会誌第9巻第1号51頁(2012年)。
33 2011年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を解釈として、野村秀敏「不正
競争行為差止請求訴訟の土地管轄と国際裁判管轄」判タ1062号116頁。この点、本調査研究に伴い開催された
調査研究委員会において、これまで、結果(損害)発生地を市場地とする見解は、不正競争行為全般を想定して
おり、営業秘密侵害に焦点を当ててはいなかったのではないか、という指摘があった。
34 2011年の法改正前の民事訴訟法5条9号の適用による国際裁判管轄権の有無を解釈として、野村秀敏「不正
競争行為差止請求訴訟の土地管轄と国際裁判管轄」判タ1062号116頁参照。
35 金彦叔『国際知的財産権保護と法の抵触』214頁、218頁(信山社、2011年)、櫻田嘉章=道垣内正人編『注
釈国際私法第1巻』450頁〔西谷祐子〕(有斐閣、2011年)、飯塚卓也「営業秘密の国際的侵害行為に関する適用
準拠法」高林龍ほか編『現代知的財産法講座Ⅱ知的財産法の実務的発展』400頁(日本評論社、2012年)。法例
11条の解釈として、営業秘密侵害を不法行為の問題として性質決定するのが多数の見解である旨につき、横溝大
「抵触法における不正競争行為の取扱い-サンゴ砂事件判決を契機として」知的財産法政策学研究12号199頁
(2006年)。法例11条の解釈として不法行為として性質決定する見解として、国際法学会編『国際私法講座 第
3巻』830頁〔土井輝生〕(有斐閣、1964年)、小野昌延『営業秘密の保護〔増補〕』423頁(信山社、2013年)、
国友明彦「ノウハウ侵害による不法行為及び不当利得の準拠法」平成3年度重要判例解説261頁。
36 法例11条の解釈として、東京地判平成3年9月24日判タ769号280頁。
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